蛇が這うように海愛の腰に回された手。
やめろ。僕の海愛に触るな。
感情のまま今にも殴りかかりそうになるが、頭痛のせいで動けない。他の男に愛する人が触れられているというのは、とても屈辱的な気分だった。
瞬間、電車の音が二人の会話を掻き消す。
海愛は笑っていた。神谷の言葉に満面の笑みを見せ、首を傾げる海愛。その瞬間、急に胃液が逆流するような吐き気に見舞われ、僕は顔を背けた。思考が完全に停止し、考えることをやめる。そのまま海愛たちと反対方向に大志を引きずりながら僕は歩いた。
あんなことになるなら、大志の言う通りにしておけばよかった。
肺が酸素を欲するが、うまく息ができない。
僕は海愛の笑顔を思い浮かべ、奥歯を噛み締める。今になって現実味を帯びてきた事態が襲いかかる。
なにも分かっていなかった。愚かな自分に腹が立って仕方がなかった。
「情けないな、僕」