「はあ……こいつ本当に置いて帰ろうかな」





 途方に暮れながら半ば本気で考え始めた僕は、酔いで痛む頭を押さえる。ふと顔を上げた、その時だった。





「あ……」





 見てしまった。それは僕が一番心配し、一番見たくなかった光景。





「海愛ちゃん、今日は泊まっていかない?」





「いやいや、私、彼氏いるんで」





 海愛はコンクリートの壁にもたれかかりながら、神谷に迫られ顔をしかめていた。

 海愛の位置から僕と大志の姿は死角となり見えない。反対に僕の位置からは海愛と神谷の姿が見えてしまう。見たくないはずなのに、目が離せない。僕はその場で動けなくなってしまった。



 助けなきゃ。



 頭では分かっているはずなのに、体が鉛のように固くなり、動けない。

 近くにいる僕の存在を知らない神谷は、嫌がる海愛に誘いを続ける。





「大丈夫だよ……だって海愛ちゃんの彼氏、俺と二人きりだって知ってて今日来ること許してくれたんだろ?」





「それは、神谷さんが蓮の話を聞きたいって言っていたから……」





 海愛の言葉に神谷は笑った。





「海愛ちゃん。君は無防備過ぎるんだよ」