「んん……」





 そのまま目立つところに痕を残したのは、あえて、わざとだ。

 自然と海愛の口から漏れだす熱を帯びた吐息に、僕は微笑む。



 理性を失う寸前で、僕は崩れかけの理性を取り戻した。



 止まった行為に、海愛はゆっくりと振り向く。鼻同士がつきそうな近い距離で、海愛と僕は見つめ合った。お互いの吐息が感じられる距離に、僕は慌てて海愛から顔を遠ざける。

 これでは本当に嫉妬しているだけではないか。





「ちょっと蓮!」





 痕に気がついた海愛は慌てて僕の手を振り払い、その場所を隠そうとする。

 僕は動揺する心を隠しながら平静を装った。あくまで自然に。嫉妬に狂う姿など、格好悪くて見せられたもんじゃない。





「男避けにいいんじゃないか、無防備過ぎるからいけないんだ」





「もー」





 海愛は困った表情を見せる。僕はそんな海愛の頭を優しく撫で、穏やかな声で言った。





「行って来ればいい」





「え?」





 僕の言葉に海愛は目を見開いて驚いていた。





「だから、その男との食事。怒らないから、行ってこいよ」





「でも……」





「なにかあれば正直に言ってやればいい。もう会わない。大切な人がいるって」





 僕の言葉に、海愛は小さく頷いた。