*   *   *





 海愛は大学入学を機に一人暮らしを始めた。

 彼女は一緒に帰宅した僕の隣に座った。そのまま猫のように擦り寄ってくる。その行動を不思議に思いながら優しく髪を撫でてやると、海愛はゆっくりと口を開いた。





「あのね、蓮」





「どうした?」





 僕は首を傾げながら海愛の言葉を聞いた。





「これ……」





「なに?」





 海愛は携帯電話の画面を僕に見せた。受信画面に記されていたのは、見知らぬ送り主からのメールだった。





「神谷かみや……陸りく?」





 聞いたことのある名前だった。メールの本文にはご丁寧に自己紹介が書かれている。





「前から誘われてたりしてたんだけど……なんか友達が勝手に私のアドレス教えちゃったらしくて……一回だけでいいから食事したいんだって……」





 あまりに純粋無垢な海愛の告白に、思わず笑ってしまった。





「ふーん……で、言ったの?彼氏いますとかなんとか」





「言ったよ! ……けど、そんなんじゃなくて、首席卒業間違いなしの成績優秀な櫻井蓮くんの話が聞きたいからって……どうして私なんだろう。蓮に直接聞けばいいのに」





 彼女がモテることに悪い気はしない。事実、海愛は綺麗だ。手入れされた栗色の地毛は、一度も染めたことがないらしい。変わったところと言えば、髪が伸び、少しだけ化粧をするようになった、ということくらいだろうか。



 なにもしなくても綺麗なのに。