*   *   *





 この日、僕は定期健診のために病院を訪れていた。

 僕の検査結果を見て、田辺先生は暗い顔をした。





「蓮くん」





「はい」





 母は心配そうな表情を浮かべながら先生と僕の会話を聞いている。





「いい加減、入院する気はないかい?」





 田辺先生の言葉に驚く母を横目に僕は涼しい顏をしている。

 いつ命を落としてもおかしくなかった日々の中、今日までこの言葉を言われなかった方が不思議だったのだ。





「先生、もう少しだけ待ってもらえませんか」





 僕の言葉に田辺先生は困り果てた表情を見せた。





「でもね、君は以前にも一度倒れたことがあるだろう。最近は薬の量だって増えてる……私は君が心配なんだ」





 生まれた時から僕の成長を見てきた田辺先生は、我が子を心配するような眼差しを向ける。





「蓮……」





 母は目を充血させ、今にも泣きそうな表情を浮かべていた。





「自分の体のことなので、無理は承知です。でも……」





 僕の意志は固かった。あと少しだけ、海愛と共に普通の恋人として生きたい。その思いが僕を動かしていた。