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「私ね、将来は人を救う仕事がしたいの」





 落ち着きを取り戻した海愛は穏やかな声色で言った。

 僕は海愛と初めて会った日のことを思い出していた。海愛は道の端で怪我をした僕を手当てしてくれた。そうして全てが始まった。





「人を救う仕事?」





「うん。少しでも、苦しむ人の力になりたいの」





 海愛は夢を語りながら微笑んだ。





「そっか。いい夢だな」





「私、頑張るからね。一人になっても……頑張るから」





 その言葉は、海愛が自分自身に言い聞かせているように聞こえた。





「ごめんな、海愛」





 僕はそっと海愛の頬に触れる。大切な存在に触れる手は、指先にまで緊張が伝わる。僕の暖かな手の温度に、海愛は目を細めた。





「寂しいけど、頑張るよ」





 僕は海愛の寂しそうな笑顔を見つめ、再び「ごめん」と呟いた。謝るばかりの僕に、海愛は優しい声で言った。





「大丈夫、大丈夫よ」





 僕にとってそれは自分を誤魔化すための言葉だった。それが海愛のおかげで癒しの言葉となり、心へ染み渡った。