「どうして図書館なんだ?」





「オレ、他校の彼女がいるんだけどさ、彼女に蓮のこと話したら、友達連れてくるから蓮を連れてこいって言われて……」





「で、その子に会えと?」





 呆れが隠せない。





「図書館なら、勉強のついでにいいかなって」





 一時間目の授業の準備をしながら、僕は聞き流すように那音の話に相槌あいづちを打っていた。





「勉強に女の子は必要ないだろ」





「そんなこと言うなって! な? 今回だけ! 頼むよ」





 このまま那音との友好な関係を続けるためには会っておくべきなのだろうが、それは僕が普通の男子高校生だった場合だ。余命僅わずかの僕にとって、無駄な人脈はあまり好ましいものではなかった。

 しばらく返答に悩み、僕は仕方なく首を縦に振ることにした。





「今回だけだからな」





 僕の返答に那音は満面の笑みを浮かべた。





「ありがとう! マジ助かる! じゃあ今週の日曜、お前ん家ちに迎えに行くからな!」





 那音は僕の親友という立場らしい。何度否定しても、突き放しても戻ってくる。そんな那音の性格に僕が折れて友達になることを承諾した。

 僕の周りには、那音の他にも友達と呼べる人間が数人いた。適当に仲良くしている。広く、浅く、あまり深い関係を結ばないように。そうして一定の距離を常に保ちながら、高校生活を送っていた。



 僕の返事に気を良くした那音は、携帯電話でどこかに電話をかけながらその場を後にした。

 僕はいつものようにクラスメイトに自分の宿題を見せていた。



 これも、高校生活を円滑にするための術。高飛車な態度はダメ。協調性が必要。その他例を挙げればキリがないが、問題ごとが嫌いな僕にとってはとても大切なことだった。

 クラスメイトに目線を向けることで、僕は日曜の那音との約束を忘れようとしていた。