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「聞いたよ、莎奈匯ちゃんのこと」
後日、事情を知った那音が心配し、電話をかけてきた。
僕の心は、強い恐怖に染まっていた。息を引き取った莎奈匯の姿は、未来の自分を見ているようだった。
たった一人の愛する人を置いて、僕はいなくなってしまう。海愛の人生において、それは障害にならないだろうか。
「お前、大丈夫か?」
「大丈夫だよ」
そんな弱気なことを考えていたから。
一週間が経過した。
いつものようにベッドから起き上がり、朝食を食べる。その後は、大量の薬を水で一気に流し込む。
朝が過ぎ去ると、僕は携帯電話の履歴を確認する。携帯電話を取り出すたびに海愛とお揃いの指輪が揺れた。
莎奈匯の一件以来、僕は保健室に通かようことを止めた。あの場所には思い出がありすぎる。
脳裏に莎奈匯の笑顔が焼きついて離れない。
莎奈匯。そっちは楽しいか?
空を見上げて流れる雲を見つめ、僕は微笑む。頬を涙が伝う。
秋の風が、頬を掠めていった。