「うん、ありがとう」
今までまともに返事をしてこなかった莎奈匯の告白に、僕は初めて答えた。
莎奈匯は微笑み、軽く頷いた。口角を上げ、必死に笑顔をつくる。その表情はすぐに崩れてしまった。
「……死にたくない、死にたくないよ……」
莎奈匯の声は震えていた。
僕は堪え切れなくなり、視線を逸らした。
「もっと、生きたい……」
勇気づける言葉もかけてやれないまま、啜り泣く声が病室に響く。
ようやく落ち着いた莎奈匯は、再び虚ろな瞳に戻り、真っ白な天井を見つめた。何度か心拍数を上下させ、莎奈匯は深い溜息をついた。
「ねぇ、お母さん」
「ん?」
莎奈匯は母親に問いかける。
「わたし、またお母さんの娘に生まれてきたいな。今度は、元気で」
莎奈匯は瞳を閉じたまま言った。
「絶対よ」
莎奈匯の母親は、泣いてはいなかった。
「うん。約束……お母さん」
「ん?」
「ありがとう」