「ごちそうさま」
食事を済ませると、汚れた食器を水に浸ける。そのまま自室に戻ろうとすると、母に声をかけられた。
「部屋に戻るの?」
「明日の予習がまだだから」
「あんまり無理しちゃダメよ?」
心配そうな表情を浮かべる母に苦笑しながら、僕は首を縦に振った。
翌日、いつも通り登校すると僕を心配そうに見つめる那音と目が合った。
「おはよう」
声をかけると、嬉しそうに「おはよう!」と返ってきた。
「昨日、大丈夫だったか?」
「なにが?」
「具合悪そうだっただろ?」
那音の言葉に僕は昨日のことを思い出し、彼に最高のつくり笑いを向けた。
「大丈夫だ」
鈴葉さんの前ではどうしても成功しなかったつくり笑いが今の僕には簡単にできていた。
那音はなんの疑いも持たず、僕の笑顔に安心しているようだった。僕の体調が万全ということを知り、那音は思い立ったように口を開いた。
「あのさ、今週の日曜……一緒に図書館行かないか? というか行ってくれ、頼む」
「はぁ?」
那音の提案に、僕は首を傾げた。彼の口から図書館などという単語が出たことが衝撃的だったのだ。