こんな日は早く家に帰って、ゆっくりとお風呂にでも入るに限る。

校舎の東。

突き当たりの階段を下りれば、すぐ昇降口だ。

「あれ?」

階段まであと八メートルと言う所で、ふと、綾の足が止まった。

今、何か聞こえたような気がしたのだ。

ぽろん。

ぽろん、ぽろん。

ぽろん――。

「ピアノの、音……?」

それは、廊下の突き当たりの音楽室から聞こえた。

ぽろん。ぽろん。ぽろん――。

空耳では、ない。

確かにピアノの音だ。

ごくり、とつばを飲み込む。

誰かが居残ってピアノの練習をしているにしては、奇妙だ。

もう既に校舎の中は、かなり暗くなっている。

なのに、音楽室は真っ暗のままだ。

誰が弾いているにしても、電気を付けないで居る理由が分からない――。

美智から教えられた『学校の七不思議』の一つ。

『夜更けに、1人で鳴り出すグランドピアの怪』のことが、脳裏に浮かんでは消える。

「ま、まさか、マジに学校の怪談……とかじゃないわよね」

や、やめてよね~~!!

綾は、縁起でもない想像を否定するように、ブルブルと頭を振った。