「あーあ。今頃美智は、何してるのかなー」

――そりゃぁ、親友の恋が実るのは嬉しい。

応援しちゃう。

でも、それとこれとは別問題よ。

私、お化けって信じてるし、怖いし、こういうシチュエーションって、いかにも何かが出そうで、一番嫌いなんだからっ。

綾は、心でひたすら愚痴(ぐち)る。

そうしていれば、少しは恐怖が薄らぐような気がした。

「こう言う時に限って、良平は、いないんだからぁ」

ん、もうっ! と頬を膨らます。

幼なじみで、ご近所さん。

同じクラスの矢部良平とは、友達以上恋人未満の微妙な、それでいて心地良い関係だった。

『気が置けない男友達』

それが、一番当たっているかも知れない。

いつもならこんな時頼りにするのだが、今日は『ピアノの日』で、やはり定時でさっさと帰ってしまっていた。

スラリとした長身で、一見スポーツマン。

実際に運動もそこそここなす元気少年なのに、ピアノの腕前は「何とかコンクール」で入賞するくらい凄いと言う、変なヤツなのだ。

実は、良平にもちょっとした話があったのだが、これも空振りに終わってしまった。

「はぁ……。今日は厄日よ、きっと」

綾は、我知らず、早足になる。