「……男だな?」
「えへっ」
綾のジト目に、美智はペロリと舌を出す。
目にはハートが飛んでいて、綾は思わず苦笑してしまう。
「やっぱりね」
綾はわざとらしく眉をしかめると、声をワントーン落として美智の肩を引き寄せた。
「それで、相手はやっぱり、2年の坂崎先輩なわけ?」
綾は、美智の意中の人、サッカー部キャプテンの名前を上げた。
その名を聞いた途端、美智のラブラブオーラが、全開になる。
「そうなのよ~。今日は練習が無いから、一緒に帰ろうって誘われちゃってさぁ。なんだか、嘘みたい? って本当なんだなこれが!」
「ほえー、すごいじゃない?」
素直な感想が、綾の口からこぼれ落ちる。
かの先輩は、爽やかスポーツマンタイプ。
サッカーなんて花形部のキャプテンなこともあって、女子にも人気があるし、競争率も半端なく劇高だ。
そのハートを射止めたのなら、これはかなり凄いことなのだ。
興味のないサッカーの応援に付き合わされたり、先輩の誕生日プレゼントを選ぶのを延々と付き合わされたりした甲斐があるというもの。
ウキウキモードの美智に触発されて、綾も何だか嬉しくなる。
恋のエネルギーというのは、恋する本人も、その周りの人間も元気にする力があるようだ。
「ほんと、今日はごめんねっ。今度おごるからさ」
「はいはい。せいぜい美味しいモノをおごって頂きましょう」
頑張れ、美智!
綾は、ウキウキスキップを踏みそうな勢いで帰っていく美智に、ガッツ・ポーズと共に、心からのエールを贈った。
でもその一方で、今日は一人で帰るのか……。
と、ちょっと淋しさが胸を過ぎったのも確かだ。