良平。
泣かないで。
どうか、泣かないで。
綾は、肩を振るわせ涙を流す良平を、抱き締めようと腕をそっと伸ばした。
だが、その手は良平の身体をすり抜けて、虚しく空を抱く。
生けるモノと死せるモノ。
違う理の中に住む2人は、もう触れあうことは許されない――。
「良平……」
伝える温もりは、私にはもう無いけど。
この声さえも、いつまで届くのか分からないけれど。
でも、どうか泣かないで。
私は、あなたに出会えて幸せだったのだから。
例え、実ることのない想いでも。
それでも、あなたに出会えて、幸せだった。
「良平」
綾は、そっと、包み込むように良平を抱きしめる。
良平は、その時、一瞬だけ綾の体温を感じた気がした。