「君に、ずっと伝えたい事があったんだ……」
揺れる声音――。
『先生』の瞳に光るものを見つけて、綾は、息を呑んだ。
なぜ、泣くの?
「綾……」
名前を呼ばれるたび、心の奥にビクリと震えが走る。
何?
何を、言おうとしているの?
その言葉を聞きたいような、聞きたくないような、恐怖に似た感覚が綾を包んだ。
「綾、君が好きだよ。誰よりも、大好きだった……」
震えを含んだ優しい声が、愛の言葉を紡ぐ。
「なのに……、守ってあげられなくて、ごめんな……」
そして落とされたのは、贖罪の言葉。
まさか――。
ピアノの旋律に乗って聞こえてくる、苦渋に満ちた絞り出すような『先生』の声を、綾は呆然と聞いていた。
先生の頬を月明かりに照らされた涙が、きらきらと伝い落ちるのを、じっと見詰める。
シャープな頬の輪郭。
彫りの深い顔立ち。
見詰める黒い瞳。
大人びてはいる。
でも、この人は、良平に『似ている』んじゃない。
この人は、良平だ。
そう思った瞬間、綾の脳裏にフラッシュバックする、強烈な記憶――。