それは、まるで洪水のような、音の奔流。
何度も何度も繰り返される、切なく優しいリフレインに、心の奥が震える。
ピアノの音と共に、ざわめき出す、心の奥の『何か』
ぽろり。
ぽろりと、綾の頬を、涙の滴が伝いこぼれ落ちていく。
「あれ……なんで?」
止めどなく溢れ出す涙に、綾は驚いた。
悲しい訳じゃない。
なのに、後から、後から、溢れ出す涙。
この、込み上げる想いは、何?
何故、こんなに切ないの?
何故、こんなに、恋しいの?
『恋しい?』
綾の脳裏に、何故か良平の顔が浮かんだ。
「綾……」
良平の声が綾の耳に届く。
違う。
良平じゃない。
ピアノを弾きながら、語り掛けているは『先生』だ。
「綾、やっと君に会えたよ――」
再び自分の名前を呼ばれて、綾は少なからず驚いた。
どうして、この人は、私の名前を知っているのだろう?
綾は彼に、名前を、教えてはいない。
それに、『やっと会えた』と、彼は言った。
やっとって?