2月――。
春の訪れはまだ遠く、落ち始めた夕日の空が、夜のとばりに包まれるのは、驚くほど早い。
凍えるような空気が肌を刺し、過ぎ行く今日を惜しむ太陽の残照が、闇に抱かれようとしている人気の無い校舎を、朱に染めている。
そんな中。
コツコツコツ。
コツコツコツン――。
灯りの落ちた暗い校舎の2階の廊下に、頼りなげな足音が響き渡った。
コートを着ていても尚、背筋を這い上がってくる冷気に、綾は身を震わせて足を止めた。
「ああ、もうこんな時間っ……。うわぁ、外、真っ暗じゃない」
チラリと腕時計を確認した後、窓の外にすがめた視線を巡らせる。
広がる空は明るい青から群青へ、紺碧へ、やがては漆黒へと変化を遂げる。
その全てを、狂ったように彩る黄昏の朱。
闇に浸食される間際の夕暮れの空は、刹那的でとても美しい。
だがそれは、何処か禍々しく綾の目には映った。
「……綺麗だけど、ちょっと、苦手な色だなぁ」
なんだか綺麗すぎて、怖い。
ポツリ。
綾は、ため息混じりの呟きを漏らすと、己の内に巣くう恐怖を振り払うように、学生鞄をギュッと胸に抱え込んだ。