東サダオの通夜から1週間経った昼下がりのことだった。

「お先に失礼します」

「はい、お疲れ様です」

香月星子(カツキセイコ)は、勤務先の弁当屋「アルファベット」を後にした。

彼女はここに勤務して、早30年のベテランだ。

本社から自分の店を持たないかと誘われているが、星子はそれを断っていた。

「今のままで満足していますから」

そんな言い訳は、表向きの理由にしか過ぎない。

本当は…言ったところで、本社が譲歩してくれるとは限らないだろう。

勤務先から歩いて10分のところにある自宅アパートについた時だった。

「香月星子さん、ですね?」