雪の中に埋もれていた小さな彼女には、名前がなかった。

宗助はそんな彼女に“夏々子”と名づけ、大切に育てることを決意した。

夏々子は、宗助に出会ったその日が自分の誕生日だと思っているのだろう。

苦しい世界から命からがら逃げ出し、生まれ変わったその日を。

「わかった」

そう言った宗助に、夏々子は顔をあげた。

「でも、僕はなっちゃんの誕生日をちゃんと祝いたいんだ。

なっちゃんがこの世に生まれたこの日を、僕は祝いたいんだ」

宗助は夏々子の手に花束をもたせると、
「提案…と言うのはおかしいけれど、2月14日を僕らの誕生日にしないか?」
と、言った。