8月の最初の夜のことだった。

「暑いなあ」

この日は熱帯夜で、瑛太はギターを持っていつもの場所へとやってきた。

「ちょっと君」

声をかけられたので、
「何ですか?」

瑛太は振り返った。

こんなにも暑いのに、かっちりとスーツを着た男が目の前に立っていた。

どうしても彼を見下ろしてしまうのは、自分の身長が185センチあるからである。

「時間があったらだけど、少し話をしてもいいかな?」

そう言った彼に、
「ええ、いいですけど」

瑛太は首を縦に振ってうなずいた。

近くにあったファーストフード店に入ると、コーヒーを頼んだ。

席に座ると、
「初めまして、こう言う者です」

彼は名刺を瑛太に差し出した。