芸能人が高速バスに乗っていると言うのに、周りはそれに全く気づいていない。

当たり前だ、自分は変装しているのだから。

広島駅に到着したらトイレに入ったら、ウイッグを外して、チューリップハットからキャスケットに変えようと思った。

いくら10年以上も両親に会っていなかったとは言え、こんなにも変装していたらさすがにわからないだろう。

窓に映っている自分の姿に瑛太はクスッと笑った後、高速バスが駅に到着するのを待った。

――何年経っても、どんなに離れとっても、親は子供が大事や

瑛太が故郷へ帰ろうと決意をしたのは、荒畑のこの言葉だった。

15歳の時に家出同然で故郷を飛び出して以来、瑛太は1度も故郷へ帰っていなかった。