彼女に居場所を与え、彼女に名前をつけたのは宗助だ。

自分に全てを与えてくれた彼を忘れることなど、簡単にできるものではない。

「自分の両親の顔とあったかも知れない名前は、あたしの中ではもう忘れたことになっているの。

それを今日ソウちゃんに言ったら、“だったらもう1度忘れればいい”って言われた」

呟くように夏々子が話した。

「宗助さん…」

「あいつ、何てことを言ってるんだよ…」

桑田は悔しそうに唇を噛んだ。

「なっちゃん、眠れないんだったら無理をしないで」

瑛太は夏々子の肩に手を置いた。

「ありがとう、エイくん」

夏々子は笑った。

その笑顔は、無理をしているように感じた。

過去の出来事から睡眠障害になっていた彼女を救ったのも、宗助だった。

彼が懸命に看病をしたから、少しずつだけど改善に向かえたのだ。