雪の中に埋もれるように倒れていた夏々子を、今でも忘れることができなかった。

自分の存在に気づいて目を開けた彼女の瞳に映っていたものは“絶望”、ただそれだけだった。

夏々子を抱きしめた時の冷たい体温は、今でもこの手に残っている。

宗助はギュッと、こぶしを強く握った。

伸びた爪が手の中に食い込んだ。

自分を見つめる強い瞳に、岡島は目をそらすようにうつむいた。

ギュッと、シーツを強く握りしめた。

「――捨てたんじゃ、ありません…」

呟くように、岡島が言った。

宗助が自分の話を信じてもらえるかどうかなんて、わからなかった。

だけど、誤解されるのはごめんだった。

“実の娘を捨てた最低な母親”――宗助の目に映っている自分は、そんなレッテルを貼られているのだろう。