2月も終わりに近づいた夜のことだった。

「いらっしゃい」

『福禄寿』に1人の客が現れた。

「サバ味噌定食と熱燗を頼む」

「あいよー」

客は注文を終えると、カウンターの椅子に腰を下ろした。

ズボンのポケットの中のスマートフォンが震えたので出して見ると、電話だった。

「もしもし?

…ああ、今『福禄寿』にいる。

わかった」

客は返事をすると、スマートフォンを片手に外へ出た。

温かい店内とは対照的な真冬の寒さに、躰が震えた。

「おっす」

目の前にいる人物が右手をあげてあいさつをした。