その声に視線を向けると、
「――ちーちゃん…」

千恵美だった。

彼女の手にはボストンバックが握られていた。

千恵美が宗助の隣に歩み寄った。

「…仕事か?」

宗助は呟くような小さな声で尋ねた。

千恵美は首を横に振ると、
「故郷へ帰るの」
と、言った。

「そう言えば、長野の出身だったね」

宗助は呟くように答えた。

「宗助のせいじゃないからね?」

そう言った千恵美に、宗助は驚いたと言う顔をした。