黒のキャスケットを目深にかぶり、膝まである黒のダウンジャケットを翻した女の子に、カメラのフラッシュが浴びせられる。

マイクが彼女に向けられるが、当人はそれを無視すると颯爽とマスコミの横を通り過ぎた。

カツカツと、黒のロングブーツを鳴らしながら彼女は事務所の中へと入ったのだった。

その様子を最後まで見ていた桑田は、
「――今のって…」

瑛太に視線を向けた。

向けられた瑛太は首を縦に振ると、
「間違いないね」
と、答えた。

「ナナコちゃんか?」

荒畑が聞いた。

ガチャッと、ドアが開いたのと同時に、さっきまでテレビ画面を独占していた彼女が現れた。

「彼らもきているんだったら言って欲しかったわ」

彼女は一言だけ言うと、それまで目深にかぶっていた黒のキャスケットを脱いだ。