「宗助が黙って私の前から去ったことは、確かに恨んだ。

何かあったなら、私に相談して欲しいと思う日々もあったわ。

だけど…理由はそれだけじゃないわ」

「…それだけじゃない、だと?」

本山は聞き返した。

「殺害された雑誌記者の男――山崎実(ヤマサキミノル)は、私が実の弟のようにかわいがっていた人だった」

そう言った千恵美に、
「…そう言えば、あんたの弟さんは中学生の時に交通事故で亡くなったんだったな」

本山は返した。

「半年前にひき逃げ事故で婚約者を亡くしたその時から、あの人の様子がおかしかった…。

いつも何かに怯えてて…問いつめても、何でもないの一点張りで。

あの日、あの人は山梨へ出かける用事があった。

私はあの人のことが心配で、後をついて行ったの」

千恵美はそこまで言うと、息を吐いた。