少女は、眠ることが怖くなった。

眠っている間に義理の父親が帰ってきたら、暴力を振るわれる。

自分が眠っている間は、義理の父親から逃げることができない。

睡眠時間が不規則になり、自分でもいつ眠っているのかよくわからなくなっていた。

自分が起きて、初めて眠っていたことに気づいている。

義理の父親からの暴力と不規則な睡眠時間――まだ幼い彼女の心は、すでにボロボロだった。

8歳の2月14日、バレンタインデーのその日は雪が降っていた。

雪が降りしきる中、義理の父親からの目を盗んだ少女は走った。

早く逃げなければ、つかまってしまう。

つかまって、暴力を振るわれる。

だから遠くへ、もっと遠くへ――。

走ったせいもあって荒く呼吸を繰り返しているその息は、真っ白だった。

「――もう、ヤだよ…」

雪のうえを裸足で歩きながら、少女は呟いた。