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雪が降りしきる2月の、バレンタインデーの夜だった。

身を切るような冷たい空気が、小さな躰を襲った。

裸足で雪のうえを走ってきたせいで、足の感覚はもうないのも当然だった。

それでも8歳の少女は走った。

義理の父親から逃げるため、雪の中を裸足で走った。


物心がついた頃には、父親はいなかった。

母親は朝から晩まで身を粉にして働きながら、自分を育てた。

父親がいなくても、母親さえいれば幸せだった。

そんな幸せが音を立てて壊れたのは、少女が6歳の誕生日を迎えた時だった。

「新しいお父さんよ」

そう言って母親は、少女に男を紹介した。

男は、母親が働くスナックの常連客の1人だった。

――そこから、少女の地獄が始まった。