――ナナコ?

――夏生まれだから、“夏々子”にしたんだ

宗助に命名してもらったこの名前は、宝物だ。

夏々子はドアの方に視線を向けた。

紅茶を淹れると言ったきり、宗助はこの部屋に戻ってきていない。

(ソウちゃん、どうしたんだろう?)

心の中で呟いた時、瑛太が肘でつついてきた。

「何?」

声をひそめて聞いた夏々子に、
「宗助さんが心配なんだろ?」

同じく声をひそめて、瑛太が言った。

夏々子は返事をする代わりに首を縦に振ってうなずいた。

「見に行ってきたら?」

そう言った瑛太に、
「わかった」

夏々子はソファーから腰をあげた。

「ちょっと行ってきます」

そう告げると、夏々子は部屋を後にした。