『愛してる』も『好き』も、お互いに言葉にしたことなんてない。
 初めて食事に誘われたその夜に、惹かれるままに倭人に抱かれた。
 云わなくてもキスで、躰で、伝わってた。溶けそうに熱くて気持ちよくて、今もそれは変わらなくて。

 少し甘酸っぱい言葉を使ってもいいなら、瀬戸ひなせの最後の恋だった。
 いつも目であなたを追ってた。片恋みたいで嫌だったのに。
 
「・・・あたしがいなくなっても倭人は困らないでしょう?」

 だって、日曜の昼間にデート出来る相手もいるんだから。
 微かに笑んでみせる。

「それとも倭人は、そんなにあたしのこと好きだった?」 

「・・・悪いか」

 少しムッとしたような倭人の横顔。

「ありがと・・・」

 あたしはそう言うのが精一杯だった。

 これ以上なにか言われたら、決心が揺らぎそうな危険信号。
 握り締めてた指にきゅっと力を込めて。
 切り札を口にする。



「倭人にお願いがあるの」