*   *   *



 帰宅後、心咲は一目散に母親である冬歌に駆け寄っていった。



「ママー!」



「おー! おねーちゃんたちに遊んでもらったか?」




「うん!」



 心咲の柔らかな髪の毛をくしゃくしゃとかき乱す冬歌の表情は母親のそれで、澪は思わず見惚れてしまった。




「でもね、おにーちゃんがおねーちゃん泣かせた!」




「な゛っ……!?」



 心咲の指摘に、のんきにあくびをしていた稚尋が咳き込んだ。




「稚尋……? あんた、子供の前で何を……」



「ち、ちが! 誤解だって!」



 姉の前で慌てる稚尋の姿が新鮮で、おもしろくて、澪はしばらくその光景を堪能していた。



「朝宮、ホントに泣いたの? 大丈夫だった?」



「泣いたのはホントだけど……」



「姫……助けて!」


 泣きそうな子犬のような顔で、かつての愛称を呼ばれ、余裕のなさそうな彼が一段と可愛く思えてしまった。



「ふふっ、大丈夫だよ冬ちゃん」




「……ホントに?」



 疑るような視線を変えない冬歌に、澪は言った。