その自己犠牲がまた、自分の首を絞めている事にも気がつかずに。
きっと彼女はこのまま僕を他の男と重ねて涙を流すのだろう。
弥生はそう思っていた。
それでも、いいと思った。
雛子が笑ってくれるなら、自分を犠牲にすることすら“正義”のような気がしたから。
「……弥生」
しかし。
「はい?」
彼女は、僕が思っていた女の子ではなかったようだ。
「雛は過去を引きずったりなんて、そんな真似はもうしない。そんなの、なんの意味もないって知ってるから」
どうして、彼女はこんなにも強く、気高いのだろう。
「雛がこれから泣いたとしたって、それを見るのも、憶えているのも……弥生だけなんだよ」
僕は弱虫だ。
僕は、雛子のことを何もわかってなんていなかった。
.