「やめてよ、彼氏でもあるまいし……」
雛子の声が震えていた。
弥生は気がついていない様に振る舞いながら、更に抱きしめる力を強めた。
「痛いよ、弥生」
嗚呼。
「ごめん」
僕は本物の馬鹿だ。
「……これが、聖夜だったら……よかった、の……にっ……」
彼女には好きな男がいる。
いくらフラれようとも、簡単に諦めがつく訳がない。
恋とは、そういうものなのだから。
「好きな人?」
「違うよ。“好きだった”人。もう、フラれちゃったしね」
胸が痛い。
彼女の切ない笑顔を見る度に、僕は肺が押し潰されているかのような違和感を感じるのだ。
呼吸が苦しくて、苦しくて。
「……だったら」
「え?」
歯止めが利かなくなる。
「僕をその男だと思って、泣けばいい。いいよ。誰もいないから、思いっきり泣いても……」
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