「胸、貸して」
「……へ?」
雛子の言葉に、弥生は目を丸くした。
嬉しい、と言うよりは、驚きの方が大きかった。
放心状態の弥生に、雛子は更に言葉を繋げた。
「……だめ?」
「……っ」
反則だ。
そんなの。
そんな顔……。
「だめ、じゃ、ないけど……」
本当にこの女の子は、僕の心を捕らえて放さない。
外灯が照らす夜道の下、弥生はそのまま雛子の体を抱き寄せた。
その瞬間に分かるのは、小さな雛子の体。
少し強引に抱きしめたら、壊れてしまいそうなか弱く小さな女の子の体。
意識するつもりはなかったが、自然と移り変わった自我に体が強張っているのが分かった。
……怖いのだ。
本当はまだ、過去が怖くてたまらない。
今、自分の腕の中にいる彼女が消えてしまうのではないか。
虚無の不安が心を占領していた。
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