羽をもがれた籠の鳥。




“逃げたい”

と必死に叫び、もがくのみ。




「……母さん、怖いよな」




暫く俯く弟を眺めていた稚尋だったが、その場に何か音がほしくなっておもむろにそんな言葉を投げかけた。



そんな稚尋の投げかけた言葉に弥生は一瞬ビクリと肩を震わせたが直ぐにコクリと首を縦にふった。



これだけは唯一、兄弟が通じ合えるものだった。







「…僕、まだ兄さんを心から受け入れるなんてことはできない」


弥生は呻くように呟いた。


「でも…」


知ってる。

知ってもらいたい。

僕の本当の気持ちを。





受け入れられなくてもいい。

傷を受け入れた上で納得してもらえるのなら。




「兄さんに受け入れてもらえるよう、努力はする」



大嫌いな兄さんだけど。


僕にとっては嫌でも世界にたった一人しかいない兄弟だから。

受け入れよう。




澪さんの思いを踏みにじりたくはないから。








弥生は何の迷いもない真っすぐな瞳で稚尋の姿を見据えていた。