「……な…に……?」




唐突に名前を呼ばれ、中途半端な返事しか出来なかった。






が。





彼には十分だったようだ。






稚尋の手の平が、真っ直ぐで艶のある黒髪を優しく撫でた。










何度も。




優しく。









その声は、小さな子をあやすときのように優しく、その中にはなぜか狂おしい程の複雑な気持ちを感じとる事が出来た。









「……ど…したの…?」












耳元で、澪も極力ちいさな声で問うた。














すると。




「俺……馬鹿みてぇ……」





そんな弱々しい声と共に力無い笑いを零す稚尋の言葉が聞こえてきた。











稚尋の両手はいまだ力強く澪を抱きしめたまま。




これ以上、愛しい人を放したりしないように。




そんな心を表すような行動だった。












それが、稚尋に出来る精一杯の事だ。