はじめて交わした言葉を、きみはまだ覚えてる?

 あれは高校に入学して一週間が過ぎた日の午後のこと。
 前日まで降りつづいていた雨も上がり、空には濃い青色が広がっていた。
 洗われた葉がその緑を美しく輝かせ、風がまるく(ほお)()でていた。

 なんでもないようで特別な春の日、僕たちは出会った。

 僕はきみの笑顔が好きだった。
 そして、その笑顔の奥に隠した悲しみを消したいとも願った。

 きみに出会うまでの僕が不幸だったとは言わない。
 楽しいこととつまらないこと、そして気だるさが日々の中に存在している、そんな感じ。
 毎日はそれなりに過ぎていき、自分の将来についてもぼんやりとしか描けない日陰(ひかげ)のような日々。

 けれどきみは、そんな僕の日常をいとも簡単に輝かせた。

 きみの周りにはいつだって(やわ)らかくて甘い空気が存在し、例えるならば花のような人。

 きみが笑うと僕までうれしくなる。

 きみのいる景色は、鮮やかな色を僕に教えてくれた。

 きみは僕に救われたと思っているかもしれない。けれど、それは違う。

 僕がきみに救われたんだよ。

 自分の好きなことを一生懸命(いっしょうけんめい)伝えようとするきみが愛しくて、ずっとそばにいたいと思っていた。

『アネモネの花言葉を知ってる?』

 それが最初の言葉だった。

 あれから季節はいくつも流れ、今年も春が来たよ。

 手元にある一本のアネモネをきみに贈る。
 今もこうして僕の名前を呼ぶきみを、ずっと大切に思うよ。


 ありがとう、僕の大好きな人。