微睡む意識の中に聞こえるのは、お兄ちゃん、と僕を呼ぶ声。
 鈴のような幼子の声が、空気を揺らして木霊する。
 随分と昔懐かしい気がするけれど、それが誰の、いつのものだったかは思い出せない。
 きっと、大切な――忘れてはいけない類の思い出。
 遠くの方ではピアノの音色が聴こえる。
 これも聴いたことがある筈なのだけれど――そう思うのに、どこか靄がかかったように不鮮明な音色は、僕に曲名を思い出させないようにしているようで。

 随分と、寂しい音だ。