「水曜日のお昼休みはみんなで屋上でご飯会しない?」
「ご飯会?」
「週に一度、アコちゃんと一緒にご飯を食べたいっていう俺の提案なんだけど、みっちゃんさえよければと思って」
「週に一度でいいんですか?」
「ん? うん。あ、でも帰り道は一緒に帰るし、後々週末デートもしたいって思ってる!」
 固めた拳からはそこだけは譲れない! という意気込みがジンジンと伝わってくる。元々帰り道は使っている駅がアコとは違うから譲るもなにもない。アコとわたしは小学校の学区は同じだったけど、最寄駅は違うのだ。入学式前には使う駅を合わせようかなんて話したけど朝キツいのもイヤ、という結果におさまった。だから半年分の定期券を新しくする時だってどちらかに合わせるつもりもない。
だから安心してくれていいし、デートにいたっては全面的にバックアップをしたいとさえ思っている。かこにあれだけアコに協力してもらっていたのに、今回わたしがアコのために何か出来たのってパーカーの持ち主捜索だけだもん。
 デート服を一緒に選んだり、おしゃれな喫茶店探すの手伝ったりしたい!
「それはもちろん邪魔しません!」
 だから力強くこちらも拳を固めて答える。先輩の隣でアコが「デート……」なんてつぶやきながら固まっている。ほんのりとピンクに染まった頬を両手でおさえて。そんなウブなところもたまらなくかわいい。アコを見下ろす先輩の目も横にのびて、アコの可愛さに癒されているようだ。付き合い始めてまだ一日だもんね。まぁアコの場合、10年近く見ていてもその可愛さは加速する一方なんだけど。……っとそれはおいといて、ひとまずは謎の『ご飯会』だ。
どうやらわたしとアコのランチタイムは週に一度以外は今までと変わらずに過ごせるらしい。だが週に一度とはいえ、参加メンバーの中に自分も加わるかもしれないものの内容を知らずには流せないのだ。
「ご飯会ってなにするんですか?」
「ご飯会って言っても屋上でお弁当食べて話すだけ。メンバーは俺とアコちゃんとみっちゃん、後は佐伯《さえき》に河南《かなん》とか。みっちゃん、ほかに誰か誘いたい人いる?」
 佐伯先輩に河南先輩といえば、円城先輩と仲のいい先輩たちだ。アコと一緒に円城先輩たちの教室に初めて足を運んだ時にもいた二人。そしてわたしにお菓子やジュースをおごってくれる二人でもある。つまりはわたしにとっても、アコにとってもお馴染みの二人だといえる。彼らとご飯か。
 わたしだけなら付き合いたての二人のお邪魔になりそう……なんて思っちゃうけどあの二人がいるならいいかな?
 なによりアコも納得しているみたいだし。
「特にいないです。じゃあ水曜日は購買パンの日からパン屋さんの日にしなきゃ」
「あ、そっか。ごめん、みっちゃん」
 水曜日は購買の日――高校に入ってからそう決めていたことをアコは思い出したようだ。申しわけなさそうに眉を下げて「やっぱりほかの日に……」なんてオロオロし始める。でもほかの曜日は何かと都合が悪い。
 月曜日はわたしたちのクラスは5限目が体育で、昼休みのうちに着がえなきゃいけない。火曜日は先輩のクラスが3、4限で化学の授業で、実験が入れば昼休みの時間は短くなってしまう。木曜日はわたしの委員会の招集が二週間に一度あるし、金曜日は分からないけどこの感じからして、先輩たちに何か予定があると考えた方がいいのだろう。
 それならわたしのお昼事情なんてささいなことだ。
「気にしないで。そろそろ水曜日スペシャルにも飽きてきたし」
 水曜日の昼のチャイムでノートをバチンととじて、お財布片手に走るのは楽しいし、水曜日の購買特別メニュー『おばちゃん特製ミックスサンド』はお気に入りだけど、アコとのお昼には負ける。
 それにパン屋さんのサンドイッチだって好きだし!
「じゃあ毎週水曜日は屋上ご飯の日ってことで、今日からスタートですか?」
「うん。みっちゃんさえよければ」
「4限終わったらダッシュでご飯買ってくるので先に待っててください」
「りょうかい」
 こうしてわたしは水曜のお昼のラストランに備えて、授業中は最適ルートの確認に励むのだった。