「みっちゃん。わたし、円城先輩と付き合うことになったの」
 小学校からの一番の友人であるアコは体調を悪くして保健室に運ばれた翌日、ほっぺをサクラ色に染め上げながら報告してくれた。
 こうなる予感はしていた。具体的には昨日から。でもうっすらとした予感がしだしたのは、アコがパーカーの持ち主を探すと言い出した時から。だから心構えだけはしていた。けれどやっぱり寂しいって気持ちがなくなるわけではない。だってずっと一緒だったのだ。小学校一年生で『かしわぎ』と『かんざき』で前後の席になってからずっと、中学も高校もクラスは同じだった。わたしに好きな人ができたって言えば手伝ってくれて、行きたい場所が出来たらいつだって二人で足を運んだ。ご飯だっていつも一緒。そのせいでせっかく出来た彼氏にふられちゃうこともあった。
「アコちゃんと俺、どっちが大事なんだよ!」
 何度か聞かれた言葉。
 もちろんどっちも大切で。だから「どっちも」って答えればいつだって彼らはわたしの元を去っていった。でも後悔をしたことは一度だってない。だってアコは大事なお友だちだもん。
 アコと一緒にいるわたしは本当のわたしで。
 だからそんなわたしを好きになってくれる、運命の相手ってどこかにいないのかな?
 そんなことを思いながら高校入学から数ヶ月でアコに彼氏が出来たというわけだ。
 アコのお相手は円城先輩。アコの二つ上で、学園の人気者だ。顔は今流行りの爽やか系イケメンというやつで、ふとした瞬間に笑うその姿が犬みたいで可愛らしいのだともっぱらのウワサだ。わたしのタイプではないけど。でもみんなから好かれているからってアコのお相手に相応しいなんてすぐに決めることは出来ない。アコが借りたパーカーを返したいって。その相手が男子らしいって聞いた時は神経をピンっと張って、ヤバいやつじゃないかって心配していた。もちろん相手が円城先輩だって分かった後も、先輩がアコのことを気に入って声をかけ始めた時も。先輩のお友だちからお菓子もらったり、ジュースおごってもらったりしていたけれど、アコのこととなれば、わたしはそんなんで簡単にほだされることはない。
それでも大丈夫! って思えたのは、アコを保健室に運んだと連絡に来てくれた円城先輩の目が本当にアコを心配していたから。それに一限が終わった後の10分休みにわたしが保健室に向かったらもうそこには先輩がいたし。それだけアコのこと、本気なんだろうって伝わってきたのだ。こうして報告するアコの隣に立っている先輩の頬は緩んでいて、幸せムード全開だ。
「おめでとう。アコ」
 だから素直に口に出して笑えばアコはいっそう笑みを深めた。
 幸せそうな顔。昔からお人形さんみたいで可愛いアコだけど、今日の可愛さはいつもの倍。いや、それ以上かもしれない。周りの男子は今さらながらにアコの可愛さに気がついて、教室の端っこの方でなにやらコソコソと話してはいるけれどもう遅い。だって可愛い可愛いアコを円城先輩が手放すわけないもん。
先輩もその視線に気づいているのか、大事そうにアコを抱き寄せる。彼氏募集中なわたしに見せつけられている、というよりはアコの友だちであるわたしに安心してってサインのつもりなのかな。そんな心配はしていない。だってアコの幸せな顔みたら大体のことは伝わってくるから。
「それでみっちゃん。相談なんだけど」
「なんでしょう?」
 まさかわたしとアコのランチタイムを邪魔するつもりなのだろうか? と身構える。でも直後にふと思う。わたしはずっとアコとのランチタイムを彼氏との昼休みよりも優先させてきたけれど、アコにもそうしてくれなんて傲慢すぎるのではなかろうか。アコとの食事は楽しいし、これからも続けたい。けれどそれはわたしの気持ちであって、アコや先輩だって恋人と一緒に昼休み過ごしたいよね……。
アコと先輩の関係を邪魔したいわけではない。むしろ応援したいのだ。だからこそ、ここは何を言われても引き下がらないといけない。我慢、我慢。そう頭でくり返して先輩の言葉を待つ。けれど言いづらそうに頬を掻いた先輩の口から出たのはわたしの想像していた言葉とはまるで違うものだった。