こうしてパーカー返却という重大ミッションをこなしたわたしは、放課後、部室棟付近の自動販売機へと向かった。
お目当てはみっちゃんの好物『いちごみるく』だ。
「今日のお礼におごらせて」
そう言い出せば、今週掃除当番のみっちゃんはルンルンで担当場所へと旅立った。
100円玉を投入して、みっちゃんのいちごみるくに続けて、わたしのミルクティーも購入する。掃除を終えたみっちゃんと一緒に、飲み物片手に放課後の教室でおしゃべり。
途中で英語の宿題が出てたことを思い出して、どうせだからって二人で机を合わせてとく。わたしもみっちゃんも二人そろって英語は得意ではない。だけど二人でやればそう時間はかからなかった。大変なこともあったけど、いつもは辞書や教科書とにらめっこしながらこなす宿題がこんなに簡単に終わっちゃった。プリントを眺める顔は思わずゆるんでしまう。いつもだったら当てるな~と念を送るところだが、自信に満ちあふれている今回なら当ててくれないかな? なんて思ってしまうほど。
「そろそろ帰ろっか」
「うん!」
校門で別れるみっちゃんに手をふって、明日からはまたなんてことない日常へともどる――はずだった。
「あ、アコちゃんだ。おはよう」
「お、おはようございます」
「今日もビクビクしてるね。チワワみたい」
「わ、わたしは人間ですので」
「それは知ってるよ~」
あの日をさかいに、円城先輩から『珍獣枠《ちんじゅうわく》』として気に入られてしまったわたしは、発見される度に声をかけられるようになってしまったのだ。
人気者の円城先輩がそんなことをすれば自然と女子生徒たちの視線はわたしに集中する。
「あ、みっちゃんじゃん。新作のチョコ買ったんだけど食う?」
「食べます!」
いや、正確にはわたし『たち』か。
気に入られたのはわたしだけではなく、みっちゃんもだ。
あの日の勇敢さと、食事中のリス化が先輩たちの心を射止めたらしい。彼らはみっちゃんを見つけるとこぞってお菓子をあげるようになっていた。今日も登校数分でみっちゃんの手ひらはお菓子が山になっていく。さすがみっちゃんだ。
「アコと一緒に食べますね!」
ルンルンとうれしそうに笑うみっちゃんの手には、きっとまだまだお菓子が増えることだろう。少なくともわたしが昨日作ったクッキーは追加される。でも今日はなぜかいつもよりも多いようだ。
新作のお菓子の発売日だったのかな?
クッキー食べるだけのおなかのスペースが残っていればいいけど……。
そんな心配をしつつも、いつの間にか隣にならんでいた円城先輩から少しずつ距離を取る。けれど人気者で、パーソナルスペースの狭い先輩によってすぐに距離を詰められてしまう。
「みっちゃん、人気だね」
始まったのはみっちゃんの話題。
わたしの友だちで、大好きなみっちゃんの。だからいつもよりも声に力が入る。
「みっちゃんはかわいいし、優しくて。わたしの自慢の友だちですから!」
魅力を伝えたいという願望が強すぎて、つい先輩の顔を見上げてしまう。するとイケメンと名高い、円城先輩の視線と交わる。
いつもだったらぜったいこんなことしないのに……。
それだけでもはずかしくて、顔は真っ赤に染まってしまうのにそこに円城先輩の追加攻撃が加わる。
「俺はアコちゃんの方が好きだけどね」
その言葉を深い意味で捉えるほど、恥知らずではないつもりだ。けれどふわっと笑うその顔はやはり学園一の人気者に相応しいもので、週に1度必ず女の子に呼び出されるほどのモテ男のそれなのだ。だからわたしの思考が停止してしまうのは仕方のないことだろう。
「みっちゃん、みっちゃん。いちごみるく買ってあげるからこっちおいで~」
「本当ですか? やった~。あ、アコに何がいいか聞かないと」
「アコちゃんの分は緑茶とミルクティーとココア、3パターン買っておけば大丈夫大丈夫」
遠くでそんな会話が聞こえてくる。3パターン全てを網羅する必要なんてない。だから代わりに、だれかこの状況から救い出してはくれないだろうか。そんなささやかなわたしの願いは彼らに届くことはなかった。
お目当てはみっちゃんの好物『いちごみるく』だ。
「今日のお礼におごらせて」
そう言い出せば、今週掃除当番のみっちゃんはルンルンで担当場所へと旅立った。
100円玉を投入して、みっちゃんのいちごみるくに続けて、わたしのミルクティーも購入する。掃除を終えたみっちゃんと一緒に、飲み物片手に放課後の教室でおしゃべり。
途中で英語の宿題が出てたことを思い出して、どうせだからって二人で机を合わせてとく。わたしもみっちゃんも二人そろって英語は得意ではない。だけど二人でやればそう時間はかからなかった。大変なこともあったけど、いつもは辞書や教科書とにらめっこしながらこなす宿題がこんなに簡単に終わっちゃった。プリントを眺める顔は思わずゆるんでしまう。いつもだったら当てるな~と念を送るところだが、自信に満ちあふれている今回なら当ててくれないかな? なんて思ってしまうほど。
「そろそろ帰ろっか」
「うん!」
校門で別れるみっちゃんに手をふって、明日からはまたなんてことない日常へともどる――はずだった。
「あ、アコちゃんだ。おはよう」
「お、おはようございます」
「今日もビクビクしてるね。チワワみたい」
「わ、わたしは人間ですので」
「それは知ってるよ~」
あの日をさかいに、円城先輩から『珍獣枠《ちんじゅうわく》』として気に入られてしまったわたしは、発見される度に声をかけられるようになってしまったのだ。
人気者の円城先輩がそんなことをすれば自然と女子生徒たちの視線はわたしに集中する。
「あ、みっちゃんじゃん。新作のチョコ買ったんだけど食う?」
「食べます!」
いや、正確にはわたし『たち』か。
気に入られたのはわたしだけではなく、みっちゃんもだ。
あの日の勇敢さと、食事中のリス化が先輩たちの心を射止めたらしい。彼らはみっちゃんを見つけるとこぞってお菓子をあげるようになっていた。今日も登校数分でみっちゃんの手ひらはお菓子が山になっていく。さすがみっちゃんだ。
「アコと一緒に食べますね!」
ルンルンとうれしそうに笑うみっちゃんの手には、きっとまだまだお菓子が増えることだろう。少なくともわたしが昨日作ったクッキーは追加される。でも今日はなぜかいつもよりも多いようだ。
新作のお菓子の発売日だったのかな?
クッキー食べるだけのおなかのスペースが残っていればいいけど……。
そんな心配をしつつも、いつの間にか隣にならんでいた円城先輩から少しずつ距離を取る。けれど人気者で、パーソナルスペースの狭い先輩によってすぐに距離を詰められてしまう。
「みっちゃん、人気だね」
始まったのはみっちゃんの話題。
わたしの友だちで、大好きなみっちゃんの。だからいつもよりも声に力が入る。
「みっちゃんはかわいいし、優しくて。わたしの自慢の友だちですから!」
魅力を伝えたいという願望が強すぎて、つい先輩の顔を見上げてしまう。するとイケメンと名高い、円城先輩の視線と交わる。
いつもだったらぜったいこんなことしないのに……。
それだけでもはずかしくて、顔は真っ赤に染まってしまうのにそこに円城先輩の追加攻撃が加わる。
「俺はアコちゃんの方が好きだけどね」
その言葉を深い意味で捉えるほど、恥知らずではないつもりだ。けれどふわっと笑うその顔はやはり学園一の人気者に相応しいもので、週に1度必ず女の子に呼び出されるほどのモテ男のそれなのだ。だからわたしの思考が停止してしまうのは仕方のないことだろう。
「みっちゃん、みっちゃん。いちごみるく買ってあげるからこっちおいで~」
「本当ですか? やった~。あ、アコに何がいいか聞かないと」
「アコちゃんの分は緑茶とミルクティーとココア、3パターン買っておけば大丈夫大丈夫」
遠くでそんな会話が聞こえてくる。3パターン全てを網羅する必要なんてない。だから代わりに、だれかこの状況から救い出してはくれないだろうか。そんなささやかなわたしの願いは彼らに届くことはなかった。