「何? 聞こえない」
こっちを見てくれれば聞こえるんだろうけど。そう思いながら身体ごと秋庭によせる。すると彼は大きく息を吸い込んで、意を決したようにわたしの耳元で声を荒げた。
「だから俺で妥協しとけって言ってんだよ!」
正直、うるさい。三連続で花火がうち上がらなければきっとほかの人の注目を浴びていたことだろう。けれどそんなことよりも秋庭の言葉の意味が気になった。
「真田はどうせ御堂《みどう》のことしか見てないんだ。だから……俺で妥協しとけよ」
「何それ?」
「どうせ花火が終わるまでに再会するなんてムリなんだ。おまえが今後も真田のことを思い続けるのは勝手だけどな、今日くらい俺で妥協しとけ」
「それって真田のため?」
「……べつに」
なにそれ。バカみたい。友だちのだめだからってそこまでする? でも一番のバカはわたしだ。秋庭にそんな気持ちはこれっぽっちもないのに、一緒に花火を見られることを喜んでしまっているのだから。
「じゃあ今日だけは隣にいてあげる」
妥協したわけじゃないけれど、きっと秋庭は今日しか許してくれないだろうから。
「ああ」
「花火、キレイだね」
「ああ」
「あ、今の星の形だった! 去年はあんなのなかったよね!?」
「ああ」
「今日、晴れてよかったね」
「ああ」
わたしといるのはつまらないのか、花火が好きではないのか、秋庭はどこかを眺めながら「ああ」と返すだけだ。一人で勝手に話しているみたいでだんだんと悲しい気持ちが胸につもっていく。けれどふと思った。
同じ言葉しか返さないなら、告白してもいいんじゃない!?
脈がないのは分かりきっているのだ。それならいっそのこと、ちゃんとふってもらうのはどうだろう。一回目は撤退という形だった。けど短期間で二回とも撤退なんて悲しすぎる。ここはわたしが前へ進むためにもキッパリとふっていただこう。
利用するようで申しわけないけど、聞いてないだろうし、この場限りで終了にしてしまえば迷惑はかからないだろう。
「真田、今ごろ沙織と花火見ているのかな?」
「ああ」
「いい雰囲気になってたりして」
「ああ」
「上手くいってるといいね」
「ああ」
まずはあの二人の話題から。
「わたしは失恋したけど」
「……ああ」
切りこむと少しだけ返答に遅れが出てくる。
もしかして少し考えた? 気のせいかなってもう一段階踏み込んでいく。
「初恋って実らないっていうけど、二回目も難易度って変わらないものだね」
「ん? ああ」
また一拍遅れた。
もしかしたら聞いていないようでちゃんと聞いているのかもしれない。けれどもう止めるつもりはなかった。
「今日さ、真田と計画して、本当はダブルデートになる予定だったんだ。でもさ、そういうのって脈ない相手をカウントするもんじゃないよね。今さら気づいたってもう遅いけど」
「……」
ついに秋庭は返事を返さなくなった。
聞いてたんだ。こんなこと言われても困るよね。でもさ、わたしの初恋を終わらせたのは秋庭なんだから、二度目も手伝ってよ。
「秋庭、好きだったよ」
過去のことにしたのは秋庭を困らせないため。
これで終わりにしましたよ、って合図。
――そのつもりだったのに。
「はぁ!?」
秋庭は想像以上に驚いて、私のことを凝視する。今度は目を逸らさない。わたしがまだ真田のこと好きだって思っているにしても、これは驚きすぎでしょ。初めて見る、秋庭の驚いた顔。わたしはなんだかイタズラが成功したような気分になって、笑いがこみあげてくる。
「安心してよ。もう先に進むから」
失恋したのに、こんなに笑えるなんて予想外だ。だけどもうさっさと帰ってベビーカステラをやけ食いしようなんて思わない。
こっちを見てくれれば聞こえるんだろうけど。そう思いながら身体ごと秋庭によせる。すると彼は大きく息を吸い込んで、意を決したようにわたしの耳元で声を荒げた。
「だから俺で妥協しとけって言ってんだよ!」
正直、うるさい。三連続で花火がうち上がらなければきっとほかの人の注目を浴びていたことだろう。けれどそんなことよりも秋庭の言葉の意味が気になった。
「真田はどうせ御堂《みどう》のことしか見てないんだ。だから……俺で妥協しとけよ」
「何それ?」
「どうせ花火が終わるまでに再会するなんてムリなんだ。おまえが今後も真田のことを思い続けるのは勝手だけどな、今日くらい俺で妥協しとけ」
「それって真田のため?」
「……べつに」
なにそれ。バカみたい。友だちのだめだからってそこまでする? でも一番のバカはわたしだ。秋庭にそんな気持ちはこれっぽっちもないのに、一緒に花火を見られることを喜んでしまっているのだから。
「じゃあ今日だけは隣にいてあげる」
妥協したわけじゃないけれど、きっと秋庭は今日しか許してくれないだろうから。
「ああ」
「花火、キレイだね」
「ああ」
「あ、今の星の形だった! 去年はあんなのなかったよね!?」
「ああ」
「今日、晴れてよかったね」
「ああ」
わたしといるのはつまらないのか、花火が好きではないのか、秋庭はどこかを眺めながら「ああ」と返すだけだ。一人で勝手に話しているみたいでだんだんと悲しい気持ちが胸につもっていく。けれどふと思った。
同じ言葉しか返さないなら、告白してもいいんじゃない!?
脈がないのは分かりきっているのだ。それならいっそのこと、ちゃんとふってもらうのはどうだろう。一回目は撤退という形だった。けど短期間で二回とも撤退なんて悲しすぎる。ここはわたしが前へ進むためにもキッパリとふっていただこう。
利用するようで申しわけないけど、聞いてないだろうし、この場限りで終了にしてしまえば迷惑はかからないだろう。
「真田、今ごろ沙織と花火見ているのかな?」
「ああ」
「いい雰囲気になってたりして」
「ああ」
「上手くいってるといいね」
「ああ」
まずはあの二人の話題から。
「わたしは失恋したけど」
「……ああ」
切りこむと少しだけ返答に遅れが出てくる。
もしかして少し考えた? 気のせいかなってもう一段階踏み込んでいく。
「初恋って実らないっていうけど、二回目も難易度って変わらないものだね」
「ん? ああ」
また一拍遅れた。
もしかしたら聞いていないようでちゃんと聞いているのかもしれない。けれどもう止めるつもりはなかった。
「今日さ、真田と計画して、本当はダブルデートになる予定だったんだ。でもさ、そういうのって脈ない相手をカウントするもんじゃないよね。今さら気づいたってもう遅いけど」
「……」
ついに秋庭は返事を返さなくなった。
聞いてたんだ。こんなこと言われても困るよね。でもさ、わたしの初恋を終わらせたのは秋庭なんだから、二度目も手伝ってよ。
「秋庭、好きだったよ」
過去のことにしたのは秋庭を困らせないため。
これで終わりにしましたよ、って合図。
――そのつもりだったのに。
「はぁ!?」
秋庭は想像以上に驚いて、私のことを凝視する。今度は目を逸らさない。わたしがまだ真田のこと好きだって思っているにしても、これは驚きすぎでしょ。初めて見る、秋庭の驚いた顔。わたしはなんだかイタズラが成功したような気分になって、笑いがこみあげてくる。
「安心してよ。もう先に進むから」
失恋したのに、こんなに笑えるなんて予想外だ。だけどもうさっさと帰ってベビーカステラをやけ食いしようなんて思わない。