「見つけた!」
聞き覚えのある声が頭にふってくる。一番わたしが聞きたい声。でもこのタイミングでなんてあまりにも調子がよすぎる。
「あ、秋庭!? なんで?」
けれど目の前にいるのは確かに秋庭で。わたしが望んだ人でもあった。
「はぐれたから心配して探しに来た」
「秋庭が? わたしを心配して? 冗談でしょう?」
さすがにそれはウソだろう。おおかた真田に行ってきなよと厄介払いをされたのだろう。当初の予定ではこのくらいの、そろそろ花火が打ちあがるタイミングで二手に別れ用と話していた。秋庭の態度からしてムリだろうって思ってたけど、もしかしたらあのタイミングでわたしがほかの三人と別れてしまったのは意外とよかったのかもしれない。
だって秋庭にはわたしを捜索するって仕事が出来たんだから。
「真田じゃなくて悪かったな」
スマートフォンをいじって、真田と連絡をとっているのだろう秋庭はついと目を逸らす。横を向いたその顔はどこか苦しげだ。初めて会った時はバッサリと切り捨てたくせに、なんで今日に限ってそんな表情を浮かべるのだろう。
わたしと二人になるのはイヤだから?
秋庭は真田が沙織のこと思っているのは知っている。友だちから遠回しに二人っきりにさせてくれって言われたから、しぶしぶわたしの捜索を開始したのかもしれない。
だったら会わないほうがよかった。適当に時間でもつぶして、見つからなかったって帰ってくれればよかったのに。なんで律儀に探してくれているのだろうか。
「別に。いいよ、もう帰るから」
「……花火、見ていかないのか?」
「家で録画してるから。帰り道にベビーカステラでも買って家で食べながら見る」
今年は現地で見られるのについつい録画予約をかけてきたのは、長年のクセがぬけないから。お母さんになにしてるのよ……ってあきれられたけど、とっといてよかった。短期間で二回も失恋するなんて思ってもいなかったし、やけ食いするのがベビーカステラなんてもっと想像してなかった。けれどこれも一夏の思い出だと思えば悪くないのかもしれない。
そんなことを考えているうちに夜空からひゅ~っと花火が打ち上がる音がする。遅れてバンっと勢いよくはじける音がして、花火大会は本格的にスタートしてしまう。出店の隙間から見える人たちは足を止め、本日の主役を見つめる。これじゃあろくに移動できそうもない。この花火大会は地元のテレビ番組で配信されるほどの夏のメインイベントだ。注目を浴びる分、花火のうち上がる回数も多く、長時間にわたる。出店の裏をこのまま進めば神社の外までたどりつけないことはないのだろうが、そうするとベビーカステラは買えそうにない。せっかく花火大会初参加なのに、お土産ゼロという無念な結果に……。それはあまりにも残念すぎる。せめてベビーカステラでなくともかまわないから、何かお祭りらしいものを買って帰れないだろうかと模索する。
きれいな花火を眺めながら、やけ食いようのものとお土産について考えてるのってきっとわたしくらいなものだろうな。
考えれば考えるほど自分の残念さを感じる。けれど今ごろ、沙織は真田と空を見上げているだろうし、真田だってこのチャンスに告白でもしていることだろう。ならまぁいっか。立ち上がってから後ろをふりむけば、秋庭は空も見上げずに下ばかりを見つめていた。そういえば結局、秋庭って今日なにしに来たんだろう。彼の目的はわからない。けれど結果は散々だったにちがいない。ほかの人だったらせめて目の前の露店でかき氷でも買って食べるところだけど、そこまで仲がいいわけではない。それになんか空気が重いし。その半分を醸し出しているのはわたしなのだろうが、早く重さを半分まで減らしたいところだ。
「それで、秋庭はどうする?」
わざわざ確認することもないのだろうが、一応……。正直答えてくれるかどうかは半分半分くらいの確率で、無言ならそのまま帰ろうと心に決めていた。けれど秋庭はおもむろに顔をあげるとこちらを見つめた。
「ここにいるのが……からか?」
声は夜空の花が奏でる音にかき消されるくらいに小さい。おまけに視線は右へ左へ、上へ下へとブレッブレだ。
そんなにわたしと視線を合わせるのがイヤなの!?
わざわざ聞くんじゃなかった。後悔しながらわたしも目を逸らす。その瞬間、空にはいっそうキレイな花が開いたのか、上を見上げる人たちはわぁっと歓声をもらす。
上と下、見る場所が違うだけでこんなに気持ちも変わるものなのか。
ならきっと沙織は今、幸せな気分であるはずだ。だって花火が好きな沙織が空を見上げていないはずがないから。隣には好きな人がいて、最高なシチュエーション。
なんでわたし、よりによって秋庭に恋しちゃったんだろう。
かなうはず、ないのにね。自分のことながら笑っちゃう。
「じゃあわたし、帰るから」
「……っまてよ!」
「なに?」
「……妥協しとけよ」
花火の打ちあがる音で秋庭の声は簡単にかき消される。
聞き覚えのある声が頭にふってくる。一番わたしが聞きたい声。でもこのタイミングでなんてあまりにも調子がよすぎる。
「あ、秋庭!? なんで?」
けれど目の前にいるのは確かに秋庭で。わたしが望んだ人でもあった。
「はぐれたから心配して探しに来た」
「秋庭が? わたしを心配して? 冗談でしょう?」
さすがにそれはウソだろう。おおかた真田に行ってきなよと厄介払いをされたのだろう。当初の予定ではこのくらいの、そろそろ花火が打ちあがるタイミングで二手に別れ用と話していた。秋庭の態度からしてムリだろうって思ってたけど、もしかしたらあのタイミングでわたしがほかの三人と別れてしまったのは意外とよかったのかもしれない。
だって秋庭にはわたしを捜索するって仕事が出来たんだから。
「真田じゃなくて悪かったな」
スマートフォンをいじって、真田と連絡をとっているのだろう秋庭はついと目を逸らす。横を向いたその顔はどこか苦しげだ。初めて会った時はバッサリと切り捨てたくせに、なんで今日に限ってそんな表情を浮かべるのだろう。
わたしと二人になるのはイヤだから?
秋庭は真田が沙織のこと思っているのは知っている。友だちから遠回しに二人っきりにさせてくれって言われたから、しぶしぶわたしの捜索を開始したのかもしれない。
だったら会わないほうがよかった。適当に時間でもつぶして、見つからなかったって帰ってくれればよかったのに。なんで律儀に探してくれているのだろうか。
「別に。いいよ、もう帰るから」
「……花火、見ていかないのか?」
「家で録画してるから。帰り道にベビーカステラでも買って家で食べながら見る」
今年は現地で見られるのについつい録画予約をかけてきたのは、長年のクセがぬけないから。お母さんになにしてるのよ……ってあきれられたけど、とっといてよかった。短期間で二回も失恋するなんて思ってもいなかったし、やけ食いするのがベビーカステラなんてもっと想像してなかった。けれどこれも一夏の思い出だと思えば悪くないのかもしれない。
そんなことを考えているうちに夜空からひゅ~っと花火が打ち上がる音がする。遅れてバンっと勢いよくはじける音がして、花火大会は本格的にスタートしてしまう。出店の隙間から見える人たちは足を止め、本日の主役を見つめる。これじゃあろくに移動できそうもない。この花火大会は地元のテレビ番組で配信されるほどの夏のメインイベントだ。注目を浴びる分、花火のうち上がる回数も多く、長時間にわたる。出店の裏をこのまま進めば神社の外までたどりつけないことはないのだろうが、そうするとベビーカステラは買えそうにない。せっかく花火大会初参加なのに、お土産ゼロという無念な結果に……。それはあまりにも残念すぎる。せめてベビーカステラでなくともかまわないから、何かお祭りらしいものを買って帰れないだろうかと模索する。
きれいな花火を眺めながら、やけ食いようのものとお土産について考えてるのってきっとわたしくらいなものだろうな。
考えれば考えるほど自分の残念さを感じる。けれど今ごろ、沙織は真田と空を見上げているだろうし、真田だってこのチャンスに告白でもしていることだろう。ならまぁいっか。立ち上がってから後ろをふりむけば、秋庭は空も見上げずに下ばかりを見つめていた。そういえば結局、秋庭って今日なにしに来たんだろう。彼の目的はわからない。けれど結果は散々だったにちがいない。ほかの人だったらせめて目の前の露店でかき氷でも買って食べるところだけど、そこまで仲がいいわけではない。それになんか空気が重いし。その半分を醸し出しているのはわたしなのだろうが、早く重さを半分まで減らしたいところだ。
「それで、秋庭はどうする?」
わざわざ確認することもないのだろうが、一応……。正直答えてくれるかどうかは半分半分くらいの確率で、無言ならそのまま帰ろうと心に決めていた。けれど秋庭はおもむろに顔をあげるとこちらを見つめた。
「ここにいるのが……からか?」
声は夜空の花が奏でる音にかき消されるくらいに小さい。おまけに視線は右へ左へ、上へ下へとブレッブレだ。
そんなにわたしと視線を合わせるのがイヤなの!?
わざわざ聞くんじゃなかった。後悔しながらわたしも目を逸らす。その瞬間、空にはいっそうキレイな花が開いたのか、上を見上げる人たちはわぁっと歓声をもらす。
上と下、見る場所が違うだけでこんなに気持ちも変わるものなのか。
ならきっと沙織は今、幸せな気分であるはずだ。だって花火が好きな沙織が空を見上げていないはずがないから。隣には好きな人がいて、最高なシチュエーション。
なんでわたし、よりによって秋庭に恋しちゃったんだろう。
かなうはず、ないのにね。自分のことながら笑っちゃう。
「じゃあわたし、帰るから」
「……っまてよ!」
「なに?」
「……妥協しとけよ」
花火の打ちあがる音で秋庭の声は簡単にかき消される。