それからというもの、つい秋庭を視線で追うようになった。
部活は違うのに登下校は幼なじみの真田と一緒で、クラスが一緒だからと移動教室まで一緒だから行動パターンはすでに知っていた。真田だけ見ていた時は秋庭のことなんかしかいの端っこにも入らなかったのに、今では真逆だった。わたしの隣で沙織は真田を追っていて、その真田の隣の秋庭をわたしは追っていた。
けれど放課後になれば、今まで通りにサッカー部の練習を見に行って沙織と一緒に真田を応援した。少しだけ期待してお財布片手に自動販売機に行くと、三回に一回ぐらいは秋庭に会うことが出来た。
「まだ諦めてないのか……」
その度に、いまだに真田のことが好きだと勘ちがいしている秋庭は呆れたり、諦めろと忠告してきた。その度にわたしが秋庭のこと、気になっているなんて思ってもいないみたいで悲しくなる。真田と沙織に進展がないのと同じように、わたしと秋庭との進展もあまりなかった。
そんな日が続いたある日、沙織が一枚のポスターを持ってやってきた。
「初香ちゃん、花火大会だって! 一緒に行こうね」
わたしにカラフルな面を向けながら、今から出店で何を買おうかとまよっている沙織。沙織がこんなにはしゃいでいるのも無理はない。今まではずっと家で心配性のお兄さんたちと一緒にテレビ中継を見るだけだったからだ。
そのお兄さんたちはそれぞれ留学や大学のゼミ合宿に行っていたり、卒業論文・卒業研究に追われて大学に缶詰め状態になっていて今回はだれも家にいないのだという。ここ数日の間にお兄さんたちからそれぞれメール、SNS、電話、手紙などの方法で連絡されていたからあまり驚きはしない。
「うん」
沙織のお兄さんたちに頼まれるまでもなく、沙織のお誘いを快諾する。……だが一つだけ問題があった。
お兄さんたちからもらったメール、SNS、手紙の続きには同じ内容のことが書かれていた。そして電話の最後に付け足された言葉もそれと同じだった。
『真田君が誘ってきたら、その時は一緒に行くのは譲ってあげてほしい』
彼らにはすでに真田の存在を報告してあった。
沙織の思い人らしいということ。
そして真田も沙織に好意を寄せているらしいということ。
せいせきも運動神経もよく、そして何より優しい人だと。
この二カ月ほど厳しい視線で真田を見極めた結果導き出された、わたしなりの報告だった。彼らはわたしの言葉を事実として受け取り、そしてその判断を下したのだった。シスコンをこじらせた彼らがこの判決を下すにはよほどの覚悟が必要だったことだろう。だってわたしだって同じだから。お兄さんたちの一人くらいは真田の身辺調査をしていてもわたしは驚かない。過保護すぎるかもしれないけど、たった一人の女の子なのだ。仕方のないことだろう。そんな彼らが一大決心をしたのならわたしはそれに従うしかなかった。
沙織と二人で初めて花火大会に行けるかもしれない。だが、沙織には幸せになってほしい。 花火大会なんて言ったらこのあたりの一大イベントで、デートにはもってこいだ。ここで誘ってこなかったらわたしは真田を沙織から引きはなす覚悟をしていた。
だが放課後、真田はやってきた――わたしの元に。
そしてそっと耳打ちした。
「初香ちゃん。二人きりでデートしたくない?」
「はぁ?」
わたしは真田のささやき声と正反対に声を荒げ、そしてわたしよりも背の高い真田のシャツにつかみかかる。花の女子高生のとる態度としては完全アウトかもしれないが、ここでキックやパンチを入れなかったことは評価してほしい。それだけわたしは頭に来ていた。沙織の恋人候補に認めた矢先にこんなことを言われて頭に来ない方がどうかしている。
「ナメてんの?」
「ちょっ、ま、とりあえず手を放して話聞いて」
「釈明があるなら今すぐ話しなさい」
初恋の人だからと言っても容赦はカケラもない。沙織のためなら鬼にでもなんでもなってやる覚悟だ。
「10、9、8……」
「初香ちゃんは秋庭と二人きりでデートしたくないですか!」
カウントを始めたわたしに早口で言い放たれた爆弾発言に思わず手がゆるむ。
「へ?」
「はぁ……はぁ。初香ちゃん、秋庭のこと好きでしょ? 初香ちゃんが秋庭と二人きりになるの協力するから、俺と沙織ちゃんと二人きりになるの協力して」
解放された首元を直し、切らした息で必死の弁明と、そしてわたしに協力をあおぐ。
もしかして真田ってバカなの?
「……ふつうに沙織を誘いなさいよ」
「遠回しに断られた。初香ちゃんに聞いてみないとって……。だから初香ちゃんから沙織ちゃんに一緒に行こうって言ってくれない? 俺は秋庭を誘うからさ」
沙織……。
「……わかった。沙織にはわたしから言っておく」
「よろしくね」
これは沙織のお兄さんたちとの約束を守ったから了承したのであって、決してわたし一人の感情で動いたわけではない。……そうなのだけど、秋庭と一緒に花火大会に行けるなんて思ってもいなかったからそのうれしさは隠せなかった。
部活は違うのに登下校は幼なじみの真田と一緒で、クラスが一緒だからと移動教室まで一緒だから行動パターンはすでに知っていた。真田だけ見ていた時は秋庭のことなんかしかいの端っこにも入らなかったのに、今では真逆だった。わたしの隣で沙織は真田を追っていて、その真田の隣の秋庭をわたしは追っていた。
けれど放課後になれば、今まで通りにサッカー部の練習を見に行って沙織と一緒に真田を応援した。少しだけ期待してお財布片手に自動販売機に行くと、三回に一回ぐらいは秋庭に会うことが出来た。
「まだ諦めてないのか……」
その度に、いまだに真田のことが好きだと勘ちがいしている秋庭は呆れたり、諦めろと忠告してきた。その度にわたしが秋庭のこと、気になっているなんて思ってもいないみたいで悲しくなる。真田と沙織に進展がないのと同じように、わたしと秋庭との進展もあまりなかった。
そんな日が続いたある日、沙織が一枚のポスターを持ってやってきた。
「初香ちゃん、花火大会だって! 一緒に行こうね」
わたしにカラフルな面を向けながら、今から出店で何を買おうかとまよっている沙織。沙織がこんなにはしゃいでいるのも無理はない。今まではずっと家で心配性のお兄さんたちと一緒にテレビ中継を見るだけだったからだ。
そのお兄さんたちはそれぞれ留学や大学のゼミ合宿に行っていたり、卒業論文・卒業研究に追われて大学に缶詰め状態になっていて今回はだれも家にいないのだという。ここ数日の間にお兄さんたちからそれぞれメール、SNS、電話、手紙などの方法で連絡されていたからあまり驚きはしない。
「うん」
沙織のお兄さんたちに頼まれるまでもなく、沙織のお誘いを快諾する。……だが一つだけ問題があった。
お兄さんたちからもらったメール、SNS、手紙の続きには同じ内容のことが書かれていた。そして電話の最後に付け足された言葉もそれと同じだった。
『真田君が誘ってきたら、その時は一緒に行くのは譲ってあげてほしい』
彼らにはすでに真田の存在を報告してあった。
沙織の思い人らしいということ。
そして真田も沙織に好意を寄せているらしいということ。
せいせきも運動神経もよく、そして何より優しい人だと。
この二カ月ほど厳しい視線で真田を見極めた結果導き出された、わたしなりの報告だった。彼らはわたしの言葉を事実として受け取り、そしてその判断を下したのだった。シスコンをこじらせた彼らがこの判決を下すにはよほどの覚悟が必要だったことだろう。だってわたしだって同じだから。お兄さんたちの一人くらいは真田の身辺調査をしていてもわたしは驚かない。過保護すぎるかもしれないけど、たった一人の女の子なのだ。仕方のないことだろう。そんな彼らが一大決心をしたのならわたしはそれに従うしかなかった。
沙織と二人で初めて花火大会に行けるかもしれない。だが、沙織には幸せになってほしい。 花火大会なんて言ったらこのあたりの一大イベントで、デートにはもってこいだ。ここで誘ってこなかったらわたしは真田を沙織から引きはなす覚悟をしていた。
だが放課後、真田はやってきた――わたしの元に。
そしてそっと耳打ちした。
「初香ちゃん。二人きりでデートしたくない?」
「はぁ?」
わたしは真田のささやき声と正反対に声を荒げ、そしてわたしよりも背の高い真田のシャツにつかみかかる。花の女子高生のとる態度としては完全アウトかもしれないが、ここでキックやパンチを入れなかったことは評価してほしい。それだけわたしは頭に来ていた。沙織の恋人候補に認めた矢先にこんなことを言われて頭に来ない方がどうかしている。
「ナメてんの?」
「ちょっ、ま、とりあえず手を放して話聞いて」
「釈明があるなら今すぐ話しなさい」
初恋の人だからと言っても容赦はカケラもない。沙織のためなら鬼にでもなんでもなってやる覚悟だ。
「10、9、8……」
「初香ちゃんは秋庭と二人きりでデートしたくないですか!」
カウントを始めたわたしに早口で言い放たれた爆弾発言に思わず手がゆるむ。
「へ?」
「はぁ……はぁ。初香ちゃん、秋庭のこと好きでしょ? 初香ちゃんが秋庭と二人きりになるの協力するから、俺と沙織ちゃんと二人きりになるの協力して」
解放された首元を直し、切らした息で必死の弁明と、そしてわたしに協力をあおぐ。
もしかして真田ってバカなの?
「……ふつうに沙織を誘いなさいよ」
「遠回しに断られた。初香ちゃんに聞いてみないとって……。だから初香ちゃんから沙織ちゃんに一緒に行こうって言ってくれない? 俺は秋庭を誘うからさ」
沙織……。
「……わかった。沙織にはわたしから言っておく」
「よろしくね」
これは沙織のお兄さんたちとの約束を守ったから了承したのであって、決してわたし一人の感情で動いたわけではない。……そうなのだけど、秋庭と一緒に花火大会に行けるなんて思ってもいなかったからそのうれしさは隠せなかった。