「あれ? 今日は二人ともいないんですか?」
「佐伯はいつもので、河南は妹たちが風邪引いちゃったらしくて看病で休み」
「河南先輩って妹さんいたんですね」
「うん。小学校3年生のチョコレート好きのふたごがいるよ」
「だから河南先輩がくれるのってチョコレートが多かったんですね」
「本人もチョコレート好きだから」
「なるほど~」
 佐伯先輩が来なくなってからも河南先輩がいた。
 だからあんまり気にならなかったけど、わたし邪魔じゃない?
 アコも円城先輩も気にせずに楽しんでいるように見えるけど、確実に邪魔だよね?
 週に一度のランチタイム。やっぱり独り者は参加すべきじゃないのかな?
 アコの話によると二学期から三年生の登校回数はぐんと減るらしい。そうすれば自ずとアコたちの通学路デートも回数が減っていくわけで……。
 今日はまぁ不可抗力として、今度からは遠慮した方がいいのかな? なんて考え始めてしまう。だって帰りの階段で話す姿も楽しそうなんだもん。
 その時は佐伯先輩と河南先輩を誘って校庭でランチもいいかもしれない。きっと楽しいだろう。けれどそんなのはきっと想像の中だけで終わってしまうことだろう。委員会の先輩みたいに、夏休み前に佐伯先輩に告白しようって考える人は多いだろうから。その中の子を気に入って、彼女にしたら一緒にご飯なんて出来なくなる。そしたら河南先輩と二人……。河南先輩のことは好きだけど、でも一緒に痛いって思うのは、いなくて寂しいって思うのは佐伯先輩の方なのだ。
 あ、そっか。
 わたし、佐伯先輩に恋してるんだ。
 なんで今まで気づかなかったんだろう。恋愛何度もしてきたはずなのに、まるで初めて恋したみたい。
 いつもみたいにアタックする? でも断られたらどうしよう? アコは絶対気にしちゃうだろう。それに円城先輩だって気まずいはずだ。
なら卒業式まで待つ? でもそんなことをしたらほかの人が彼女になっちゃう。たとえば委員会の先輩とか。いい人かもしれないけれど、でも自分以外と誰かが隣にいるのはなんかイヤだ。それがアコだったら、多分わたしは身を引く。だってアコだもん。アコはわたしの中で特別枠だから。でもそれ以外はイヤなのだ。なんて勝手な思いなんだろう。でも恋なんて初めから両思いにでもならない限りは勝手なものだ。
 アコに先に謝っておいて、今度佐伯先輩が屋上に来たら時間をもらって告白しよう。好きですってストレートに伝えて。玉砕したら、その時は二学期から水曜日はぼっち飯を決め込もう。クラスの子のだれかの輪に入れてもらうのもいいけど、それじゃあアコが心配するし。いっそのこと厚生委員じゃなくて飼育栽培委員にでもなれば良かったかも。あれだったら曜日変えてもらうだけで解決だし。でもそんなこと思ったところで、今度の委員会決めは二年生になってから。少なくともわたしは3月まで厚生委員のままなのだ。
 だったら早速アコに話さなくちゃと決意する。といっても帰りは先輩と一緒だから、相談は明日のお昼になるんだけど。でもこういうのって顔を見て話したいから我慢我慢……。それでもアコに相談出来ると思うだけで一気に気持ちは軽くなる。アコならきっといつもみたいに応援してくれる。

 ――そう思っていたのだが、アコが時期はずれのインフルエンザにかかった。
インフルって冬のイメージだったんだけど、どうやらそろそろ夏に切り替わるという時期でもかかるらしい。メールを送ったら「そんなにツラくはないから大丈夫だよ~」ってメールが返ってきた。けどアコのことだから、心配かけまいとしてくれているのだろう。こんな時にわざわざ相談することでもない。それにわたしにはアコにノートを見せるというミッションがかせられた。
 授業中に寝たりほかのことを考えている時間などないのだ。
 アコの成績を下げるわけにはいかない! そんな思いを胸にかかげて授業に望めば、意外とろくなことを考えずにすむ。お母さんに怒られた翌日よりもずっとやる気がでる。
さすがアコパワー。
 アコが返ってくるまでの間、お昼の時間は近くの席の子のグループに混ぜてもらった。あんまり話したことはなかったけど、話しやすいタイプの子。その中の一人はサンドイッチはカツサンドが好きらしい。意外だと驚けば、ソースでべちゃっとしたのはダメだからね! って真剣な目でコンコンと説明された。タマゴサンドで言うところのマヨネーズの割合と同じだ。話は思いの外はずんだ。アコが登校してきたら紹介しようって思うくらいには仲良くなれた。