「ねぇみっちゃん。うちの学校で赤いパーカー着てる男子、だれか知ってる?」
「知らないけど、なんで? あ、もしかしてひとめぼれしたけど名前が分かんない的な?」
 リスのようにタマゴサンドを口いっぱいに頬張りながら、恋バナ好きなみっちゃんは目をキラキラと輝かせる。話題をふったのはわたしだけど、食事中にお話をするなんて行儀の悪いことは見逃せない。
 お話はちゃんと飲み込んでからと伝えるようにみっちゃんの水筒を差し出せば、コクコクと頷いたみっちゃんはモゴモゴと口を動かしてから受け取った水筒をかたむかせた。真上近くまで持ち上げた水筒からお茶を飲み干す勢いだ。そんなに急がなくてもいいのに。ぷはぁとひと息ついたみっちゃんは、サンドイッチの代わりにわたしの話に食いついた。
「アコの初恋なら協力するよ!」
 パンのカスをちゃちゃちゃっと落とすとわたしの手をぎゅっとにぎりしめる。両手から伝わってくるみっちゃんの意気込みはなんともありがたいもので、同時に頼もしいものでもある。お行儀は悪くとも、みっちゃんはわたしの自慢の友だちなのだ。だから本当に初恋を迎えた時にはぜひともお手伝いをしてほしいところだ。
 もちろんわたしだって、今まで通り、みっちゃんが新たな恋を見つけた時は全力でお手伝いをするつもりだ。とはいえ、行動派なみっちゃんはわたしが手伝うよりも先にアタックを開始するからあんまり手伝えてる気はしないけど……。って、今はそういう話じゃないのだ。
「ちがうよ。ほら、わたし昨日学校休んじゃったじゃん?」
「うん」
「実は一昨日の帰りにね、駅で具合悪くなってホームのベンチで座って休んでたの。そしたら通りがかりの人がパーカー貸してくれて……。一応お礼は言えたけど、名前を聞くところまでは頭回んなくて」
「だから名前の分からないパーカーの持ち主を探している、と。でもさ、探すにしても駅を使う人ってうちの学校だけでも結構な人数いるよ。そんな簡単に見つかるかな? 顔わかる?」
「わかんない……。けど、うちの制服着てたからうちの生徒なのは間違いないよ!」
 悪く言えば、同じ駅の利用者で、その上同じ学校に通っている男子生徒が赤いパーカーお菓子てくれたってことしか分からないけれど。それでもみっちゃんは「それだけ分彼ば十分でしょ!」と手をたたく。
「ごはん食べたらほかの子にも聞いてみようよ。赤いパーカーって結構目立つし。アコ、そのパーカー今日持ってきてる?」
「いつ会えるか分かんないからちゃんと持ってきてる!」
「じゃあ早く食べて聞きこみ開始しよ~」
 わたしよりもずっと頼もしいみっちゃんは再びリス化してサンドイッチを平らげていく。みっちゃんがこんなにやる気になってくれているんだもん。わたしも頑張らなくっちゃ。みっちゃんほど早くはないけれど、わたしもいつもよりも早くおはしを動かしてお弁当を空にしていく。
 そしてさっそく聞き込み調査を開始したんだけど――

「みっちゃん、今日はもう撤退しよう? 今度一人でちゃんと返却しにくるから」
「え、でもこういうのって早く返した方がよくない?」
「そうだけど!」

『赤いパーカーの男子生徒を知らない?』
 そうたずね歩いていると返ってくる答えはいつだってたった一人の人物を指していた。