「インクの種類を変えるときは、洗浄を入念に行えば問題なく使えます」

並ぶインク瓶の中から、僕は少し悩んで、没食子インクを手に取った。 

「……これにします」

もう少し店内を見て周ることにした。 文房具以外にも、壁に掛かった絵画やアンティークの雑貨が珍しかったし、付箋やレターセットはユニークな柄や形のものがあって面白かった。 そんな風に僕が店内を見ているその間、女性店員はレジ奥に戻って、何か作業をしているようだった。

店内を周る間、あの店主の姿を探したけれど、それらしい人物はいなかった。 記憶違いか、それとも今日はたまたま留守なのかもしれない。

僕はボールペン数本と付箋を手に取ってレジに向かうと、レジ台の上に白い毛色の青い目の猫が座っていて思わずビクッとした。 

置物かと思ったけれど、その猫は僕をじっと見た後にゆっくりと瞬きをして、にゃあと一言鳴いた。

女性店員は僕の存在に気付き、「すみません」と言いながら猫を抱いてレジ奥の椅子の上に降ろした。

ふと、既視感を覚えた。 以前も、同じようなことがあった気がする。

「猫、苦手じゃないですか?」

「はい、大丈夫です」

「良かった」

微笑む女性店員のエプロンの胸元には、『凪』と書かれたネームプレートが掛かっていた。 さっきまで気付かなかった。 

僕は品物をレジに置きつつ、ひとつ疑問を口にした。

「あの……今日は、年配の男性の店員さんっていませんか……」

「えっ?」

訊くと、凪さんは元々丸い目をもう少しだけ目を丸くして頷いた。 僕は、その反応につい身構える。