六月、某日、君と



『20236/11/13晴れのち雨』

 “青年が、いつかに撮った写真を持ってきてくれた。 とても良く撮られていて、さっそく飾った。 宝物がひとつ増えた。
 本日の購入品は付箋だった。メモを沢山するのかと訊ねたら、彼は人より忘れっぽいのだと言う。事故による後遺症によるものらしい。これからは、ノートと付箋を多く仕入れておこう。
 彼は静かに私の話も聞いてくれたから、つい話しすぎてしまった。
 話し込んでいるうちに雨が降り出して、彼は店にカメラを置き忘れて行ってしまった。悪いことをした。
 また、名前を聞きそびれてしまった。次、店に訪れた時に必ずカメラを返して、名前を教えてもらおう。“
 

「……ここに……」

僕は再び日記帳のページを捲って、自分の事が書かれていないかを探す。

けれど、それ以降は現れることなく、2023/12/19が最後のページとなっていた。

ふと視界の隅で何か動いたような気がして自分の左横を見ると、隣に置かれた棚の上にマルが澄ました顔をして座っていた。 

「前にも、会っていたんだね。 ……ごめん」

目を合わせてそう言うと、マルは瞬きを数回した後にスッと立ち上がって、そのまま僕の膝の上に乗っている日記帳の匂いを嗅いで、何故かその上に前足を乗せた。 僕は慌てて日記帳を膝の上から離そうとマルの足元に視線を落とすと、最後の日付に書かれた日記の一文に目が留まった。

“あの青年は、元気だろうか”

思わず、呼吸が止まる。 遠い記憶の中にいる誰かに手繰り寄せられるように、ふと思い出す。

——“困ったことがあれば、いつでも来なさい”

確か、そう言われた気がする。 声は思い出せない。 だけど、優しい話し方でとても心地が良かった。

僕は、あの店主と話すことがすきだった。 僕の拙い言葉を、急かすことなく待ってくれて、遮ることなく聞いてくれた。

ああ、そうだ。 僕は、自分のことを話したんだ。 

そのはずなのに。 

思い出すと同時に、どうしようもなく胸が苦しくなる。

思わず目をぎゅっと瞑ってしまいそうになったその時、また足音がして視線を向けると、生成り色の布に包まれた何かを抱えた凪さんが戻って来た。