「あ、えっと、その……」
凪さんは、僅かに視線を揺らす。
「その人は、わたしの祖父なんですけど……祖父は、4か月前に亡くなりました。 その後、わたしがこの店を引き継ぎました」
言葉を失った。 何かに頭を殴られたみたいにぐらりと視界が歪んで、眩暈がする。
4か月前。 凪さんの言葉を頭の中で反芻しながら、僕が最後にランコントルに来たのはいつだっただろうかと思う。
けれど、思い出そうとしても、分からなかった。
「す、すみません…………その、知らなくて……」
絞り出せた言葉はそれだけで、それ以上は何も出ず、ただ項垂れた。 目の前が暗くなる。
「いえ、そんな……。 祖父が居た頃、お店に来てくれたことがあったんですね」
「はい……数回、ですけど……」
「そうだったんですか」
具体的に、彼女のお祖父さんと話したことはいま思い出せない。 ノートを読み返してきた筈だけれど、頭が混乱している所為かよく思い出せない。
ああ、まただ。 また、僕はこうやって……。
「あの、お名前、教えていただけませんか?」
えっ、と顔を上げると、優しく微笑む凪さんと目が合う。
「……一葉 旭、です」
「わたしは、宮沢 凪です」
凪さんは、胸のネームプレートを僕に見せる。 僕は凪さんの顔とネームプレートを交互に見る。
「一葉さんは……祖父と、何か話したりとか、しましたか?」
「えっ……と……」
あからさまに動揺してしまったと思う。 けれど、凪さんは「あ、変なこと聞いちゃって、すみません」と焦ったように言う。